同じように見える塗位牌にも塗のランクがある?
上塗りや呂色塗り、漆塗りなど塗の種類や特徴と見分け方
漆塗りの世界は奥深く、位牌が私たちの生活にとって身近な高級品であることを思い起こさせてくれます。
仏壇・仏具店に足を運んで位牌を見ていると、形や色は同じであっても、微妙にツヤ・質感が違うことに気付くはずです。
この違いは、塗料・技術それぞれの違いによって生まれています。
一見同じような色・デザインに見えても、中身をよく見てみなければ違いは分かりにくいものなのです。
今回は、仏具の中でも「塗位牌」に焦点を当てて、塗りの違いや種類・特徴・値段・見分け方などについて紹介しています。
現代では多くのお店で製品情報を知ることができ、騙されるリスクは少ないかもしれませんが、相場観や見た目のイメージを覚えておくと役に立つはずです。
そもそもの「塗位牌」をおさらい
まずは、塗位牌というものが、どんな位牌なのかについて改めて見ておきましょう。
仏教でいうところの「本位牌」として用いられる位牌であり、故人と向き合う大切なものですから、できるだけ手の込んだものを選んであげたいものです。
基本的には「黒塗り」となった位牌のこと
見た目の話だけで言えば、塗位牌とは「黒塗り」になった位牌です。
一般的に位牌というとこの黒塗りの位牌をイメージする方も多いくらいにオーソドックスでもあります。
この黒塗りの札板に金色などの文字色で名入れをします。
色を入れるのは経年劣化対策で、文字部分が焼けて字が読みにくくなるのを防ぐためです。
このとき、文字が映えるようにするには、下地となる位牌の色が重要になります。
黒や朱色など、金色が映える下地の色を選んだ結果、黒塗りの位牌が主流となったものと考えられます。
手ごろな値段のものから超高級品まで種類は様々
位牌はお仏壇とワンセット・あるいは単体で礼拝の対象となる仏具のため、上を見ればかなりの金額になります。
安価なものならネットショップなら1,000円台から見受けられますが、高価なものであれば、実に数十万円を超える値段にもなり、お仏壇すら買えるような金額もあります。
デザインとしては、ご自宅のお仏壇の雰囲気に合わせて選ぶ形になりますが、長年使うものですから耐久性も重要になってきます。
その点、現代では色も塗料も様々なものが売られていますから、多数の商品の中から選べる分、限られた値段の幅で迷う心配はなさそうです。
値段の決め手となるのは「素材」と「工程」
1,000~数十万円という非常に幅広い価格帯の中で、その値段の根拠にあたるものは何なのでしょうか。
位牌に関して言えば、塗料として使うものの「素材」と、塗料を塗る際の「工程」にあります。
木地となる木材の種類も関係してきますが、それを完成品から推測するのは素人には非常に難しいものです。
木地の保存状態を左右するのも塗料や塗り方になるため、やはり素材と工程について理解しておいた方が確実でしょう。
細かく見ていけば、装飾の技法によっても値段は少なからず変動しますので、シンプルなデザインでもOKという方なら、派手なものを避けることを意識すれば問題ないでしょう。
塗料の種類から見る塗位牌の特徴・値段・見分け方
続いては、塗料の種類をもとにした、塗位牌の特徴や値段・見分け方についてご紹介します。
位牌の世界では「漆(うるし)」が塗料の基本となりますが、現代ではより安価な塗料が用いられており、その分お値段も安くなる傾向にあります。
一般的には、高級なものは本漆で仕上げられるとされる
値段を塗料の種類で判別する場合、一般的に高級とされる塗料は「本漆(ほんうるし)」と考えてよいでしょう。
この違いを見た目で判断するには、他の塗料で仕上げられた位牌と見比べるのが一番早いのですが、特徴を覚えておかなければ判別がつかないと思います。
本漆とそれ以外の塗料とを比べた時、大きな違いは
- 匂い
- 質感
この2つです。
塗装直後、漆は独特の匂いを放ちます。
ただし、匂いは時間が経過するとともに消えていくため、匂いで判断するのは職人技です。
素人でも分かりやすいのが「質感」で、他の塗料ではハッキリとしたツヤが出ているのに対し、本漆はしっとり・ふっくらしています。
これは、漆にゴム質などの成分が含まれていることが関係しており、不純物を含有した状態のまま塗料に精製したことで生まれるものです。
「天然と人工の違い」と言えば分かりやすいかもしれません。
ちなみに、遠目から見て本漆とほぼ変わらない塗料としては、合成漆・カシューなどが該当します。
特にカシューは、紫外線に強く塗装も加工も簡単であり、価格も漆の1/3程度と安価なため、その分位牌の値段も安くなり価格と品質のバランスに優れています。
やや変わったところではウレタンがあり、こちらは完全に木をコーティングするような質感となります。
家具にも使われているだけあって、これはこれで美しい質感となっています。
現代ではデザインに応じて金額も変動する
塗の話だけで判断すると、やはり本漆が高いのだな、と考えがちです。
しかし、位牌全体の話で言えば、そもそも本漆の商品が主流になっているわけではありません。
価格帯によっては、木材の持つ特性をそのまま活かした唐木位牌・モダン仏壇に合わせるためのモダン位牌なども人気です。
多くの業者でラインナップされているものはカシュー塗で、中堅以上の値段でもよく見かけます。
それではどの部分で価値を決めているのかというと、金色部分に純度98%以上の本金粉を使ったり、沈金・蒔絵・螺鈿などの技術を贅沢に用いたりすることで、価値を高めている例が多いようです。
ただ、もちろん最高級品の地位は本漆に譲ります。
高級位牌として知られる会津位牌の種類によっては、漆で緑色の色合いを作り出したり、波のような文様を生み出す粉蒔絵という技法が用いられたりと、一つひとつがとにかく贅沢に仕上げられています。
ここまで来ると、素人目にも一目見ただけで高価であろうことが容易に想像できるでしょう。
相場観としては、以下のような傾向が見られます。
- ~20,000円で選ぶなら、海外製のカシュー塗位牌・モダン系位牌
- 20,000~100,000円の間で選ぶなら、装飾付きカシュー塗/モダン系位牌
- 100,000円を超える価格帯で選ぶなら、会津位牌などのブランド位牌
高いほど長持ちしやすい傾向があるものの、最終的にはご家庭の予算に合わせて選ぶ形となるでしょう。
塗料の違いは、年数を経るごとに分かりやすくなる
塗料の違いは、購入時の見た目だけでなく、購入後にどれだけそのままの姿を保っていられるかが焦点の一つです。
漆は塗りの手間がかかる分だけ塗料としては持ちがよく、日本でも古代に建立された建物には漆が使われ、千年以上にわたり原型をとどめています。
似たような色合いを持つ塗料のカシュー塗は、基本的に漆のマイナス面を補強するために作られたものなので、将来的には漆よりも高い性能を発揮することが期待されます。
ただ、生まれてからの歴史が浅く、経過を知るには時間が必要です。
おそらく、位牌の塗料として問題となるのがウレタンで、家具同様に6~8年で劣化が始まる可能性があります。
見方によっては漆よりも美しい光沢を持っているのですが、紫外線に弱いという弱点があり、木が持つ質感も損なわれるおそれがあります。
このような塗料ごとの特性を理解し、自分たちで納得できるものを選ぶことが大切です。
工程の種類から見る塗位牌の特徴・値段・見分け方
塗位牌においては、塗料の種類だけでなく、その塗り方も判断材料になります。
そこで、漆塗りをベースに、塗りの工程から見る特徴・値段・見分け方などをご紹介します。
主な塗りの技法について
漆に関する塗りの技法は非常に幅広く、作ろうと思えばそれだけで小冊子ができるでしょう。
しかし、現代ではその全てが市場に出回っているとは限らないため、今回はその中でも特によく聞かれる名称についてご紹介します。
漆塗り
塗の技法としては基本的なもので、ツヤも比較的抑えめという印象です。
漆に油を加えず、塗った後に研磨作業を施さない技法です。
工程が比較的簡素なため、質の割にはお値段もお手ごろです。
蒔絵などの加工が施されたり、デザイン自体が豪華になったりすると、その分だけ高値になってしまう特徴を持ちます。
上塗り(じょうぬり)
漆塗りと同じく、研磨は行わない技法ですが、油分を加えた漆を塗るという違いがあります。
素材の違いが価値に反映され、工程が単純な分だけ職人の技量も問われます。
漆の敏感な特性を理解している職人が手掛ける分、技法としては上級工程という位置づけとなっています。
透き漆(すきうるし)
木地の質感を活かすタイプの技法です。
紫檀・黒檀などの木材に下地加工を施さず、透き漆と呼ばれる半透明の塗料を直接木地に摺り込んでいきます。
このとき、木目を傷つけないため、綿に塗料を染み込ませて摺り重ねます。
完成品は、鏡面のような美しさと木目の優しさを兼ね備えた、極めて芸術性の高いデザインとなっています。
呂色塗り(ろいろぬり)
漆を用いた技法の中では最高級に位置するもので、上塗りの工程で油分のない漆を塗った後、表面を研ぐための炭を使って研ぎ、生の漆を摺り込んだ後で乾燥させ、乾燥したら磨くという作業を行います。
この工程は何度も繰り返され、やがて塗面は平らになり、位牌は高貴な黒の光沢を身にまといます。
工芸品としても高い評価を得ている技法の一つです。
手が込めば込むほどに値段も高くなる
上で紹介した技法は、手が込んでいるほどに値段も高くなる傾向にあります。
一般的な漆塗りであっても、在庫処分品を除いては安いものでも10,000円台からのスタートと考えておくとよいでしょう。
上塗りになるとやや最低価格が上昇し、15,000~35,000円程度を見込む形となります。
透き漆になるとさらに高くなり、30,000~60,000円程度が相場です。
呂色塗りはさすがに高級品となり、100,000円以上する位牌の多くが呂色塗りです。
デザイン・大きさもさることながら、装飾・色自体が一般的な位牌と異なるものもあるため、お仏壇とのバランスも考える必要があるでしょう。
カシュー・ウレタン塗は、技法としては上塗りに属する
ここで気になるのが、漆ではなくカシュー・ウレタンを使っている場合、技法としてはどの位置に属するのか、ということでしょう。
こちらは、木地の上に塗装を施す形になりますから、技法としては上塗りの部類に入ります。
ただ、素材自体が漆に比べて安価に抑えられることから、技法の別ではなく素材の別で値段が決まる傾向にあります。
価格帯も相対的に見て安く、良いものを選ぼうと思えば10,000円~30,000円台から見つけられるでしょう。
保存状態に注意すれば、ウレタンでもある程度の期間は持ちますが、やはり家具の延長としての加工である点には注意が必要です。
将来的に、位牌が劣化したことによる魂抜き・魂入れの手間を省きたいのなら、最初の段階で長持ちするものを選んだ方が賢明です。
おわりに
今回取り上げた技法以外にも、漆塗には数多くの技法があります。
ただ、それら全てが位牌に用いられているわけではなく、位牌に求められる質感に応じた技法が用いられています。
仏教世界において、位牌自体に価値があるわけではなく、大切なのはご先祖様・故人への荘厳の気持ちです。
位牌とは、あの世でご先祖様に不自由のないように、故人が幸せに暮らせるようにと、家族の願いを込めて戒名を彫り上げるためのものです。
芸術的な観点から位牌を探すのも一つの方法ですが、本来の供養の意味を忘れずに、毎日お祈りを捧げる対象にふさわしいものを選ぶ心構えが大切です。
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