新盆・旧盆は何が違うのか?
それぞれの特徴や地域の違いと仏具の祀り方。

お盆の時期と言えば、全国的に8月の中頃というイメージを持つ人が多数派です。
実際、一般的な企業などでお盆休みというと多くは8/13~8/15あたりの日程で組まれることがほとんどです。

しかしながら、一部地域では前倒しでお盆を行うところもあり、その違いに違和感を持つ人も少なくありません。

居住している地域から転居した経験のない人は、旧盆と新盆の違いについて知らないケースも多く見られ、たまたま新盆の習慣を目にして驚くという事もあり得ます。

今回は、そんな実は地域で異なるお盆の時期・新盆と旧盆の違いについて、時期の違いはもちろん、新盆と旧盆それぞれを採用する地域の特徴・仏具や御供えなどに触れつつご紹介します。

まずは新盆と旧盆の違いについて

まずは、新盆と旧盆を見ていきましょう。
それぞれを比較した際、それぞれにどのような違いがあるのかについてご説明します。

簡単にざっと説明をしておくと、日本という国の事情から生まれた習慣がお盆であり、さらに歴史によって新盆と旧盆に分かれたという違いがあります。

新盆と旧盆は、もとは暦の違いから生まれた習慣

新盆と旧盆は、明治時代に採用した暦の方針によって生まれました。
江戸時代まで、日本では太陰暦を採用しており、明治時代に世界的な暦の太陽暦に切り替えました。

しかし、このことによって、お盆のスケジュールに変更が生じたのです。

太陽暦は「地球の公転」を基準にした暦であるのに対し、太陰暦は「月の満ち欠け」を基準にした暦です。
暦の構造自体が異なるため、それぞれの暦を比較すると、年間で日にちにズレが生じてきます。

今、採用されている太陽暦ではご存じの通り、1年は365日・うるう年は4年に1度です。
しかしながら、昔に採用されていた太陰暦では、1年がおよそ360日・うるう年は3年に1回というペースで調整されます。

これを日付に当てはめていくと、当然年間のズレがお盆の日にちにも影響を及ぼしていき、最終的に1ヶ月近い差異が生まれることになるのです。

その結果、明治時代の7月と江戸時代の7月では時期がまるっきり違ってしまうこととなり、主に農業で生計を立てた大多数の農業従事者が混乱におちいったことは想像に難くありません。

こうして、太陽暦における7月中旬にお盆を行うと支障が生まれる地域は、農業が一息つく8月中旬に行って差し支えないという考え方が生まれ、新盆・旧盆という形に分かれて落ち着いたとも言われています。

上記のような経緯から、新盆=7月、旧盆=8月となりました。
余談ですが、新暦にのっとって行われるため7月を新盆、かねてから行われていた旧暦にのっとって行われるため8月を旧盆と呼んでいます。

新盆を採用する地域は都市部が中心であり、旧盆はそれ以外のほとんどの地域で採用されています。
ただし、実際に新盆を採用しているのは一部の地域だけで、全国的には旧盆の8月がお盆というのが一般的となっています。

やるべき事に大きな違いはないが、異なる点もある

新盆と旧盆の違いから、お盆という仏事そのものに大きな違いが生じることはなく、いずれの場合もご先祖様・故人の安寧を祈ることに変わりはありません。
ただ、全てが同様というわけではなく、時期が分かれている点も含め、いくつか違いがあるのも事実です。

具体的には、お仏壇・仏具に関する違いはごく細かいもので、どちらかというと地域独特の風習に違いが見られます。

一例を挙げると、東京では一軒家を構えることが難しいため、どうしても集合住宅における限られたスペースで飾りつけを済ませる必要があります。
そのため、タンスの上に安置したお仏壇の前に折り畳み机などを設置して、花ゴザを敷いて精霊棚をこしらえる家庭も珍しくありません。

金花と呼ばれる精霊棚用の飾り花を用意する家もあり、お盆の時期はスーパーのような大衆店でも見かけるようになります。
盆提灯の用意も同様で、一軒家のように仏間にたくさんの提灯を飾るのは難しいため、用意する提灯は1~2丁がせいぜいです。

このように、新盆を行っている地域独特の事情が違いを生んでいるケースが多く、宗派や時期による祀り方の違いは大きく目立たないと言えるでしょう。

新盆を迎える地域と特徴について

新盆を迎える地域は、歴史的な事情もあり、全国でも地域は限られています。
以下に、主な地域と特徴についてご紹介します。

全国的に見て、新盆を迎える地域はごくわずか

新盆の風習は、お盆の中でもマイナーなもので、新盆を迎える地域は全国的に見てごくわずかです。
具体的には、東京都のほぼ全域(多摩地区の一部を除く)・南関東の都市部・静岡県や石川県の旧市街地・北海道函館市などが該当します。

これらの地域では、例えば夫婦で出身地が違う場合、7月に新盆を、8月にどちらかの実家で旧盆を過ごすことも多く、お盆を2回経験するという特殊な環境に置かれます。

また、函館など北海道の一部地域では、七夕も7月と8月で分かれることがあり、お盆に限らず他地域とは異なる独特の風習を持つ地域は珍しくありません。

江戸時代における武家社会の中心地では農作業に従事する人が少なく、新盆のスケジュールを受け入れるのが容易だったため、地域ごとにお盆の風習の違いが生まれたものと推察されます。

ちなみに、8月1日からお盆とする地域もあり、岐阜県や東京都の一部でこの日程が採用されています。

お仏壇の飾りつけやお墓参りの作法はどうか

新盆は、お盆を始める時期が違うというだけで、その他の点で旧盆と大きな差があるわけではありません。
よって、飾りつけやお墓参りに関しては、宗派や地域独特の決まり事こそあれ、基本的な作法に変わりはありません。

精霊棚を用意し、お盆に必要な仏具・御供え物を用意して、故人やご先祖様の安寧を祈ります。

鬼灯(ほおずき)や笹を用いて飾りつけをしたり、ござの種類や迎え火・送り火で燃やすものの違いがあったりすることはありますが、時期の違いから差が生まれているわけではないことに注意が必要です。

お墓に備えるもの・イベントに違いがあることも

基本的なお参りの方法こそ差はないものの、新盆を行う地域独特の御供え物や、お盆に関するイベントなどには違いが見られます。
一例を挙げると、7月にお盆を迎える石川県金沢市では「キリコ」という仏具をお盆に用い、市内のスーパーでも手に入ります。

キリコとは、木と紙で作った灯籠の一種で、お墓参りの際にはロウソクを立ててお墓の前に吊るして使います。
お盆の最終日(送り盆)の火に送り火として用いる役割があり、石川県は浄土真宗の信仰が強いことから、念仏が書かれているものを多く見かけます。

また、各家庭でお盆自体は7月中旬に済ませても、7月下旬~8月中旬にお盆のイベントを持って来る自治体も見られ、観光に関する事情があるものと推察されます。
旧盆・新盆の習慣が混ざり合っている自治体では、盆踊りなどを8月にずらす場合もあるようです。

時代や居住者の変遷によって、今後お盆の時期が統一される可能性もありますが、当面は引越した地域のルールにならうのが賢明です。

旧盆を迎える地域と特徴について

日本の大多数が旧盆を迎えるため、あえて説明を必要とする内容はそれほど多くありません。
一般的なお盆という言葉の場合は、ほとんどがこの旧盆=8月のお盆を指すことになります。

しかし、新盆と比較する意味で、ここからは旧盆における一般的なお盆の流れについてご説明します。

新盆が例外的であり、日本のほとんどの地域では旧盆を採用

先にご紹介した地域以外では、原則として旧盆の時期にお盆の供養が行われます。
全国的に8月中旬はお盆休みのシーズンであるものと理解されており、7月に仕事を休んで帰省する話がニュースになることはまずありません。

ただ、8月に休みが集中する状況を避けるため、企業・組織によっては7月に前倒しで休暇を認めるところもあります。
東京が地元で、地方に転勤しているような人にとっては、休みを上手に使えば得をするかもしれません。

一般的な「お盆」のイメージで飾りつけして問題ない

月の違いでお盆の飾りつけが違うことはありませんから、各宗派・地域の決まり事に応じて飾りを用意します。
お盆の時期だけお仏壇に飾るものとしては、マコモのござを敷いて作った精霊棚・キュウリの馬・ナスの牛・水の子・閼伽水(あかみず)など、一般的に知られているものを用意すれば差し支えありません。

丁寧に供養するなら、霊供膳(りょうぐぜん)を日に三度御供えし、メニューを細かく決めたり精進料理を用意したりします。
このあたりは、新盆・旧盆関係なく行われます。

イベントや風習は全国各地で違う

8月はお盆の時期として多数派のため、日本全国で行われる盆踊り・イベントも多種多様です。
違いが分かりやすいのは盆踊りで、北海盆踊り・河内音頭・念仏踊りなど、全国各地で地域に根差した催しが行われています。

徳島県の阿波踊りなど、世界的に有名なイベントもありますが、そもそも阿波踊りも盆踊りの一種です。

法要については、7月と8月で内容に差が生じることはないと考えてよいでしょう。
8月にお盆を迎える場合、各檀家を回るスケジュールを檀家に教えてくれるお寺もあるようです。

ただし、檀家の居住地域によっては、7月・8月それぞれでお盆を行う家が分かれているお寺もあります。
そのような場合、7月の法要は事前予約が必要な場合もありますから注意が必要です。

ちょっと特殊な旧盆のケース

ここまで、7月中旬にお盆を迎えることを新盆、8月中旬にお盆を迎えることを旧盆として、それぞれの状況についてご紹介してきました。
しかし、日本の中でも特に風習が違う地域では、同じ旧盆でも時期や祀り方が大きく異なる地域も存在するため、参考までにお伝えします。

沖縄や奄美大島は旧暦を採用している

沖縄・奄美大島などの地域では、ご先祖様を特に大切にする習慣があります。
そのため、最近の風習である新盆はもとより、江戸時代以前の日にちを取った旧盆も採用せず、旧暦における「満月の日」を選んでお盆とします。

旧暦を用いるため、毎年お盆の日にちが違う点も特徴で、概ね8月8日~9月6日ころを目安に変動します。
このような風習が残るのは、独特の歴史を持つ地域ならではと言えるでしょう。

お盆におけるお仏壇の祀り方も大きく違う

沖縄では、お盆の前・七夕にもお墓参りを行います。
これは、ご先祖様にお盆が近づいてきたことを報告する目的で行われます。

また、お仏壇のデザインや仏具も独特のもので、御供え物が酢の物(ウサチ)だったり、最終日にはウサンミと呼ばれる重箱料理も御供えとして用意したりと、御供え物のルールも複雑です。

奄美大島も同様のメンタリティを持っており、七夕には笹・竹に短冊を飾るとともに、ご先祖様が迷わないようにと家々オリジナルの飾りを付けて、天高く飾ります。

お仏壇の種類こそ特別な取り決めはありませんが、黒いお椀に入った汁もの「黒椀」を作る、お椀に盛り付ける品は七種類用意するなど、霊供膳よりも品数が多いという特徴があります。

墓参りの風習にも違いがある

沖縄には「むやみやたらに墓参りをしない」という風習があります。
これには、お墓参りの時期以外にお参りすると、周辺のお墓が寂しい想いをするという、何とも人間味のある理由が関係しています。

よって、お盆の時期に墓参りをすることはせず、七夕の時期にご挨拶に向かうだけというケースが多いようです。
ただ、何か迷い事・願い事がある場合は、墓を守る土地神「ヒジャイガミ」様に祈りを捧げることもあります。

奄美大島では、家々でお墓参りのルールが違い、迎え火は焚いても送り火は焚かないなど自由度も高いようです。
ただ、やはりお盆の時期はお墓も混み合い、多くの家族がお参りにやって来ます。

名前が似ている「初盆」と混同しないよう注意

お盆の呼び名として、新盆・旧盆と解説してきましたが、よく間違えやすいものの1つに「初盆」があります。
特に、新盆とは名称が似ていて紛らわしいため、「初盆」と「新盆」を混同してしまいがちです。

しかしながら、新盆・旧盆に違いはそれほど見当たりませんが、初盆は全く異なるものです。
初盆とは、ある家で初めて家族が亡くなった後に初めて迎えるお盆のことで、正確には故人が亡くなってから四十九日を過ぎて初めて過ごすお盆のことを言います。

初盆とは?いつ?迎える準備や用意と御供えやお布施と宗派での違いなど
夏の風物詩の一つである「お盆」は、様々な仏教行事の中でも、日本人にとって親しみやすい行事です。 正式名称を「盂蘭盆会(うらぼんえ)」といい、 …

一部の地域では初盆=新盆とするところも

この初盆ですが、一部の地域に限っては、新盆と呼ぶこともあります。
本来の意味で言えば、新盆は旧盆と時期の違いになり、初盆と異なる意味であるはずですが、初盆と新盆を同じとしてそう呼ばれている場合もあります。

特に結婚や転勤などで、それぞれの実家近くに住居を構えたといった場合は、自分たちが思っていたことと違うといった場合もありますので、新盆・旧盆間の違いと混同しないよう、初盆は一般的なお盆と異なる点がいくつかありますから、親戚などから話を聞く際にも注意が必要です。

おわりに

ところ変わればルールも変わるお盆。
多くの地域では8月中旬に行われるものの、一部地域では7月中旬・旧暦を基準にしてお盆が行われます。

時期の違いがお参り・御供えのルールに影響をもたらしているわけではありませんが、独特の文化を色濃く残す地域は、やはりマイナーな時期にお盆を迎えるところが多いようです。

引越した際には、念のため「その地域のルール」を学んでおいた方が、後々悩むことは少ないかもしれません。
ただお盆には新盆・旧盆だけでなく初盆もあるため、初盆だけは意味や行うことも異なるため混同しないよう注意しましょう。

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  • 公開日:2020.06.25

カテゴリ:仏事などの解説

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