水子供養の手順とその方法について。
その意味や歴史と必要性、位牌や仏壇の選び方も。

  • 2019.09.05
  • 2020.04.06

仏壇 位牌 仏事などの解説

新しい命を授かった喜びもつかの間、産まれるはずだった命が遠くに旅立ってしまったとき、人はその無常さに深い悲しみを覚えます。
しかし、悲しみを振り切り新しい生活に戻るためには、何らかの形で気持ちを切り替えることが必要です。

生まれてくる前の命を供養する方法の一つに「水子供養(みずこくよう)」があります。
人によっては、そういった供養の存在さえ知らないというケースも珍しくありません。

そこで今回は、水子供養とはどのような供養なのか、お仏壇や位牌は必要なのかなど、水子供養に関する基本的な知識を紹介します。

水子供養について

まずは、水子供養とは何なのか、その概要をご紹介します。
水子という概念自体が仏教に属するものかどうかは、意見が分かれるところの一つであり、日本神話が原点になっているという見方もあるようです。

そもそも「水子」とは何か

水子とは、現代でこそ「みずこ」と呼ばれていますが、本来は「すいじ」と呼ばれていました。

泡子とも呼ばれ、水子という呼び名が広まったのは、日本神話におけるイザナギ神・イザナミ神の間に生まれた最初の子ども「ヒルコ(水蛭子)」がもとになっているという説もあります。

水子という名称は、死亡した胎児のほか、乳幼児期に亡くなった子どもを含む名称として用いられていたようです。

飢饉などが頻繁に起こる貧しい時代には、貧困などの理由から堕胎・間引きといったことは珍しくなく、そのような形で亡くなった胎児・えい児を葬っていた「水子塚」というものもありました。

水子は、日本において比較的よく知られている概念の一つと言えるでしょう。

極楽浄土に案内してくれるのは「地蔵菩薩」

水子の特徴として、きちんとした形で生まれる前、もしくは生まれて間もなく亡くなっている点が挙げられます。
仏教世界において、そんな子どもたちを導く存在とされているのが「地蔵菩薩」です。

幼くして亡くなった子どもには知恵が身に付いていないため、死後に三途の川を渡れないという俗説があります。
幼い子供が親より先に死んでしまうと、親を悲しませてしまい、親孝行もできずに旅立ってしまったことから、その責め苦として鬼にいじめられ続けるというものです。

このエピソードに登場するのが地蔵菩薩で、子どもたちがいじめられている賽の河原(さいのかわら)まで地蔵菩薩が足を運び、鬼から子どもたちを守ると言われています。

仏法・経文を聞かせることにより徳を与え、成仏するよう導いてくれるのです。

母親の気持ちを和らげるための供養の一つ

水子供養は、一見すると早くに命を亡くした子どもたちのための供養に見えます。
しかし、新しい命をきちんと産んであげられなかった母親の気持ちをやわらげるため、執り行われる供養という見方もできます。

せっかく産まれた子どもが亡くなった場合、母親はどうしても自分を責めがちです。
精神的なダメージは強く、気持ちをどうしても前向きに切り替えられず、妊娠することに恐怖感を抱いてしまう人もいます。

水子供養を行うことにより、産めなかった子どもに対して愛情を注ぎ、地蔵菩薩の加護を得られるように自分の心を軽くできるという一面はあります。
母親自身の心を救うためにこそ、水子供養はあるという考え方もできるのです。

水子供養はどのように行うのか

水子供養に関する基本的な部分が分かったところで、次は具体的に水子供養をどのように行うのかについてご紹介します。
毎年行う法要の中に含まれているものではないため、基本的には各家庭の事情に合わせて行われます。

お寺に足を運んで供養してもらうのが一般的

水子供養の形式としては、水子の親となる父親・母親がお寺や神社に足を運んで、供養をお願いするのが一般的です。
諸事情があって、母親だけしか足を運べない場合もありますが、それはそれで全く問題ありません。

一般的な供養と同じく、水子の成仏を祈願し、読経・祝詞をあげます。
イメージとしては、法要に参加する形と基本的には同じものと考えておきましょう。

エコー写真・母子手帳などを持っている人は、それらも供養の対象となり、お焚き上げを行って燃やします。
こうすることで、水子・母親それぞれの未練を断ち切り、安らかに成仏させることができるとされています。

位牌を作る場合で、特にお仏壇を用意しない人は、そのままお寺に永代供養をお願いするケースもあります。
その場合は、自宅で安置するための位牌のほか、お寺で供養するのに必要な位牌も用意することになります。

ちなみに、位牌を作って自宅で供養するという人の場合、戒名をお坊さんからもらうケースもあります。

しかし、現世での穢れ(けがれ)のない子どもに戒名をつけるべきではないと考える人も少なくないため、このあたりは価値観の違いに応じて判断が分かれるでしょう。

いずれにせよ、戒名をもらった場合、それはお坊さんの優しさです。
位牌に刻み込み、大切にしてあげましょう。

必ず行わなければならない供養ではない

水子供養が一般的な供養と違うのは、仏事として必ず行うものではないという点です。
この世に生を受けたならまだしも、何らかの事情で流産・中絶という結果に至った場合などは、全ての家庭で水子供養が行われるというわけでもありませんでした。

そもそも、現代のような水子供養の習慣が生まれたのは第二次世界大戦後と言われています。
その理由の一つとして、戦前の日本において、日本政府の人口増加策である「堕胎罪」がもうけられていたことが挙げられます。

悲しいことに、これは戦争を見越した国策であり、子どもは重要な戦力として捉えられていたのです。

しかし、戦争が終わって出産に関する技術の近代化が生じたことで、良くも悪くも何らかの事情で「生まれるべきでない」と判断された子どもを事前に間引くことが、法的に例外として認められるようになりました。

特に、母体の健康に影響を及ぼすことが想定される場合、日本ではそれを理由にした中絶が認められています。

本来ならきちんとした形で産めたかもしれない子どもを中絶させたことが、自分の中に「強い罪悪感」として残ったお母さんたちの中には、精神に支障をきたしてしまうケースも見られるようになりました。

また、一部の悪徳占い師・寺院などが、それらを「水子の祟り」と称し、過去には高額なお布施を支払わせるところもあったようです。

現代でも、スピリチュアルブームによる詐欺に近いようなサービスは少なくないものの、過去に見られるような「祟りありき」というアプローチでの水子供養は淘汰されてきています。

水子供養をお願いする場合は、当人や子どもの気持ちを優先した供養をしてくれる寺院・神社を選ぶのがよいでしょう。

赤ちゃんのことが忘れられない人は自宅供養を

不妊治療などを経てようやく授かったはずのわが子が、残念ながら生を受けることができなかった場合、子どもを作ること自体をあきらめてしまうケースは珍しくありません。

しかし、その事実をしっかり受け入れることができれば、次のステージに進むことができるかもしれません。

どうしても赤ちゃんのことが忘れられないという人は、あえて自宅供養で毎日赤ちゃんと向き合うという選択肢もあります。
わが子が存在した唯一の証となる、エコー写真や母子手帳、思い出の品などをお仏壇に飾り、来世の安寧を祈るのです。

供養には、正解はありません。
お寺でお焚き上げをすることで気持ちが吹っ切れる人もいれば、常に側に置いておくことで気持ちをつなぎとめる人もいます。

新しく位牌・お仏壇を用意して、産まれてくるはずだった新しい命と向き合うことも、真摯な供養の形の一つと言えるでしょう。

水子供養における位牌の選び方

水子供養は、お寺・神社で供養を終えた段階で、基本的には終了となります。
しかし、その後も継続して供養したいと考える人は多く、その場合は自宅用に位牌を用意します。

水子供養を自宅で行う場合は位牌が基本

自宅で水子供養を行う場合に必要となるのが「位牌」です。
お寺で水子供養を行った場合は、その段階で戒名・位牌をいただけるところもあります。

水子供養のためだけに、大きな金仏壇・唐木仏壇を購入するケースはほとんど見られず、自宅にお仏壇があれば一緒に安置するといった流れになります。
また、水子だけを供養する場合、必ずしもお仏壇は必要ではありません。

金銭面などの事情から、自分だけで行うこともある

水子供養の場合、仏教による供養が一般的なものとは限らず、神社や教会で行われているケースもあるようです。
仏教においても、年々の法要のように毎年必要な供養ではないことから、現代では自分だけで供養を済ませたとしても問題ありません。

周囲の目を気にしていたり、本来なら父親となるべき人と連絡が付かなかったりすると、なおさら家族に言いにくいというケースもあります。
そのような場合は、ネットを介して供養をお願いし、その後自宅で供養するという方法を取ることができます。

自分で選ぶ場合、素材や戒名はどうするのか

位牌を自分で選ぶ場合、素材・戒名をどう選べばよいのか、戸惑ってしまう人も多いでしょう。
本来はお寺に永代供養を依頼していれば、自宅での供養は必要のないものですから、水子供養用の位牌というものはそこまで厳密に決められているわけではありません。

宗派によってはそもそも位牌自体を必要としないケースもありますから、ご自宅にお仏壇がある場合は、宗派を最優先して考えるのがよいでしょう。
菩提寺に相談するのも一つの方法です。

水子供養だけを自宅で行うのなら、位牌の種類に特段決まりごとはありません。
位牌を購入するのと同時に、戒名も彫ってくれる業者を探すのがおすすめです。

戒名を付ける場合、その分だけお布施をお寺などに包むことになるでしょう。
しかし、水子の場合はそもそも戒名を付ける必要がないため、名前だけを彫る形でも問題ないとされています。

水子供養におけるお仏壇の選び方

水子供養は、基本的に位牌だけあれば供養に支障はないものとされています。
しかし、お仏壇は霊が住まう場所でもあることから、できれば小さなものでも用意しておきたいところです。

ここからは、水子供養におけるお仏壇の選び方について、いくつかご紹介していきます。

お仏壇が自宅にあるなら位牌を置く

自宅にお仏壇がある場合は、その宗派にのっとった形で位牌を一基用意しましょう。
それ以外で、例えばお仏壇の中に小さなお仏壇を用意するといった必要はありません。

水子も広い目で見れば家族の一因ですから、自宅にあるお仏壇をそのまま使って差し支えないでしょう。
浄土でも、水子を新しい仲間として迎え入れる準備を整えやすいはずです。

単体で選ぶならコンパクトなものを

自宅にお仏壇がない場合、コンパクトなものでよいですから、位牌を安置するためのお仏壇を用意しましょう。
コンパクトといっても、仰々しい上置き仏壇ではなく、木のぬくもりが感じられるようなミニ仏壇で差し支えありません。

お仏壇ということで、三具足を準備して線香やロウソクを立てるイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、生を受けて間もない子どもということもあって、そこまで仰々しく供養するのも違和感があるという人もいます。

現代ではお仏壇のデザインも様々で、お人形さんを住まわせるようなドールハウス型のお仏壇や、小さくまとまって杢目が美しい祭壇型やステージ型のお仏壇が見られます。

そこに可愛らしいおもちゃを飾ったり、小さな花を生けることによって、より自然な供養ができるでしょう。

可能であれば、御本尊のそばにお地蔵様を

必須というわけではありませんが、もしもスペースに余裕があるなら、御本尊のそばにお地蔵様を安置しましょう。
水子供養のお仏壇のみなら、御本尊のスペースに安置しても差し支えありません。

特段仰々しいデザインのものである必要はなく、小さくて子どもが喜ぶような優しい顔立ちのものを選ぶという考え方もあります。
これが正解というデザインのものはありませんから、自分が子どもの気持ちになって選んでみるとよいでしょう。

おわりに

水子供養は、仏教的な概念から供養の風習が生まれたわけではありません。
しかし、新たな命を迎えられなかったことの無念を晴らすために供養をすることは、子どものためならず自分たちのためにも必要なことです。

苦しい気持ちを捨て去り、新たな命をお迎えするためにも、供養を行うことは大切です。
亡くなった命に寄り添いつつ、新しい時を生きる人にとって、水子供養は心の安寧を取り戻すための重要な習慣になるでしょう。

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  • 公開日:2019.09.05
  • 更新日:2020.04.06

カテゴリ:仏壇, 位牌, 仏事などの解説

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