仏具にある夏用や冬用の種類の違いについて。
季節に合わせて変えるべき?1年中使っても大丈夫?
四季のある日本では、季節に応じて着用する衣類を変える「衣替え」があります。
実は、お仏壇にもその考え方が取り入れられており、一部の仏具を夏冬で交換するという習慣が見られます。
現代では、お仏壇の種類も多様化したため、一口に仏具の夏用・冬用を語ることはできません。
しかし、唐木仏壇・金仏壇など、昔からあるデザインのお仏壇を安置している場合、一年中同じものを使っていると場違いな仏具もいくつか存在します。
気温の変化・季節感がはっきり感じられる地域であれば、お仏壇に飾る仏具を変えてみると、雰囲気も変わります。
この記事では、夏用・冬用の違いが見られる仏具につき、その違いと交換時期などについてご紹介します。
夏用と冬用の違いが見られる主な仏具について
すべての仏具を夏用・冬用で分ける必要はなく、使い分けが必要なのは一部の仏具に限られています。
まずは、夏用と冬用の違いが見られる主な仏具についてご紹介します。
打敷
一般的に、季節で変える仏具の一つとして認識されているのは、打敷です。
お釈迦様が座られる場所に、仏弟子たちが自らの衣類を敷いてお迎えしたことが起源と言われていますが、お仏壇では主に前卓・上卓に敷くために用います。
「打」という漢字が用いられているのは、強くたたいてしっかりと全体に張ることを意味しているからで、ベッドのシーツをピンと張るようなニュアンスが近いでしょう。
毎日飾るものではなく、法要・お彼岸などを迎えた時に都度飾り、ほぼすべての宗派で使用するものです。
夏用は薄手で、夏にふさわしい涼しげな刺しゅうが施されています。
正絹製は手触りもさらりとしており、上品な雰囲気を醸し出します。
これに対して冬用は、厚手で重厚な雰囲気を持ち、刺しゅうも贅沢です。
豪華かつ華やかな刺しゅうがされていて、仏教では高い位の色である紫・金・朱などが用いられているものを多く見かけます。
ちなみに、夏用は6月(初夏)~9月(秋彼岸入り前)まで、冬用は9月(秋彼岸以降)~翌年5月まで使用するのが一般的です。
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座布団
和室のある家では、座布団の取り換えを意識して行っているところもあると思います。
お仏壇の前に置く座布団も、夏用・冬用で違いがあります。
多くの場合、座布団の種類そのものは変えず、カバーの色合いや種類を変えて対応する家が多いでしょう。
こちらも打敷と同様、夏はシックな色合いで、冬は紫や金を用いた豪華なデザインが用いられます。
本格的に行うなら、座布団の素材が夏冬で異なるものを選ぶ必要があります。
夏用の座布団に使われている素材は「イグサ」で、薄手の落ち着いたデザインが好まれ、冬用に比べて薄い傾向にあります。
逆に冬用は厚手でふかふかしたものが多く見られ、座る人の負荷を減らしつつ、畳に座った際の冷えを緩和してくれます。
和室がない場合は、自宅の居住環境・お仏壇を安置している場所に応じて、厚みやデザインを考えることをおすすめします。
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三具足などを変える場合も
家によっては、三具足など一部の仏具につき、夏冬で異なるデザインを用意する場合もあります。
具体的には、冬場は真鍮・黒塗りのものを使い、夏場はガラス製にするなど、涼しさを仏具に取り入れるイメージで組み合わせる例をよく見かけます。
夏場はどの家もお盆を迎えるため、帰省する家族・遊びに来る親族のことを考えて仏具を取り換えると、ご先祖様も喜んでくれるでしょう。
ただ、すべての仏具を夏冬で変えるのは義務ではありませんから、予算に応じて賢く種類を選びたいものです。
仏具の季節感を考慮する理由について
続いては、仏具を季節に合わせて変える理由についてご紹介します。
原則として、お仏壇はご本尊・ご先祖様をお祀りする家のような場所ですから、自宅同様過ごしやすい環境を作ることが思想の根底にあるものと推察されます。
ご先祖様・お坊さんをお招きするため
季節に応じて仏具を交換するのは、単純にインテリアの装いを変えるという意味合いだけでなく、根底にあるのはご先祖様をお招きするための礼儀です。
暑い夏にお越しいただくというのに、打敷が暑苦しいデザインだと、せっかくいらっしゃっても不快な思いをさせてしまうことでしょう。
また、お経をあげてくれるお坊さんを招く場合、季節に応じた座布団を用意しておかなければ、読経している間ずっと、暑い・寒い思いをさせてしまうかもしれません。
四季にふさわしい仏具を用意することは、その場に招かれる人の快適さを整えることにつながるのです。
もちろん、親族や家族がやって来た際にも同じことが言えます。
せっかく忙しい時間の合間をぬって足を運んでくれるのですから、座布団にせよ打敷にせよ、ささやかな気遣いを忘れないようにしたいものです。
季節感を取り入れるため
衣替えの一環として、お仏壇を夏らしく・冬らしく整えることも、夏用・冬用の仏具を用意する動機になります。
仏具を取り換えること自体は義務ではなく好みの問題ですから、誰にとっても・どんな家でも同じように考えられるわけではありませんが、夏らしい・冬らしい雰囲気にお仏壇を模様替えしたいと考えるのは自然なことです。
盆提灯など特別な仏具を飾るお盆なら、涼やかな雰囲気を出すために、ガラスや青を基調とした仏具を選んでもよいでしょう。
秋なら美しい蒔絵の木製仏具をチョイスしたり、春なら桜色を並べたりと、その家で暮らす人の感性に応じて好きなように選べます。
逆に、一年を通して涼しい気候であるなど、衣替えを必要としない地域であれば、そこまで仏具の種類にこだわる必要はないかもしれません。
季節感をお仏壇に取り入れたい場合は、自宅に安置しているお仏壇のデザインにも左右されるため、四角四面に考えないことが大切です。
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日々のお勤めに支障をきたさないため
毎日家族の誰かがお経をあげている家なら、家族の日々のお勤めに支障をきたさないよう、仏具に気を配るのも大切な視点の一つです。
特に、座布団に座って読経する時は、ひざ・すねが座布団に接しているため、適切な温度を維持できなければ不快感を覚えます。
夏の暑い時期に厚手の座布団に正座すれば、露出したひざ・すねの汗を感じやすくなり、リラックスしてお経を読めないかもしれません。
また、冬にイグサのような薄手の座布団に長時間座ると、冷えから関節を痛めてしまうおそれがあります。
座布団を季節に応じて変えることは、自分たちの身体をいたわる意味でも重要です。
デザイン性・素材・値段など、気になる部分は多々あると思いますが、座布団は機能性にも注目して選びたいものです。
仏具の取り換えは絶対に行うべき?
仏具を季節に応じて変えるかどうかは、その家で暮らす人の価値観や、お寺の方針などによって変わってきます。
打敷は、多くの宗派で夏冬用のものが用意されているものの、三具足などを夏冬で交換するのは一般的とは言えない部分があります。
実際のところ、仏具の取り換えは絶対に行うべきなのでしょうか。
続いては、各家で衣替えするかどうかを判断する指針についてご紹介します。
明確に義務付けられているわけではない
大前提として、仏具すべてを夏・冬などの季節に応じて変更することは、明確に義務付けられているわけではありません。
日本では信教の自由を憲法で保障しており、お仏壇に飾る仏具を考慮することは「宗教的行為の自由」にあたることから、現代ではどのようなルールで仏具を選ぼうと罰せられません。
そのため、仏具の取り換えに意味を持たせるかどうか・仏具の取り換えを必要とするかどうかは、あくまでも各家の考え方・個人の自由となります。
もし、夏冬の衣替えを「ご先祖様が悲しむ」などの理由から半ば義務のようにすすめてくる業者がいたとしたら、そのような考え方はスルーしてまったく問題ありません。
お盆や法要などの場合は、お寺や家のルールに従う
菩提寺との付き合いが深い場合は、お盆・法要を迎える際に、必要な仏具をチェックしておきましょう。
その過程で、打敷は夏と冬で使い分けるなどのルールを説明されたなら、両方用意しておいた方が無難です。
座布団まで細かく指摘されるケースはまずないと思いますが、やはりせっかくお坊さんにお越しいただくことを考えると、夏・冬の使い分けはできていた方が望ましいでしょう。
お盆の時期など、数多くの檀家を回るのはお坊さんにとっても重労働ですから、ささやかな心配りが喜ばれるはずです。
インテリア・お仏壇のデザインによっては不要なケースも
家具調仏壇・ミニ仏壇など、お仏壇のデザインや大きさは多様化する傾向にあります。
現代では洋室だけの部屋・家も珍しくなく、椅子に座った状態・立った状態でお祈りができる大きさのお仏壇も多数登場しています。
例えば、椅子に座るタイプの家具調仏壇でエアコンが完備されている家なら、デザインや気温管理の観点から考えて、打敷・座布団を使い分ける必要はないはずです。
マンション住まいの場合、お仏壇はなく写真と仏具をタンスの上に置くなど、簡素な形で故人を偲んでいる人も珍しくありません。
仏具の取り換えを考えるケースは、基本的に古来から続くお仏壇のデザインに限られるものと考えてよいでしょう。
おわりに
仏具の夏用・冬用を季節に合わせて用いるのは、ご先祖様・お坊さんなどをお招きする際の礼儀の一つに数えられます。
打敷は夏と冬でデザインが違い、座布団には季節ごとの暑さ・寒さを想定して使い分けをする目的があります。
また、三具足などの仏具を涼しげなデザインのものに変えることも、季節感を演出できます。
近くに風鈴などを飾っているなら、統一性を持たせる意味でガラスの仏具に取り換えるのもよいでしょう。
ただ、どのような家でも一律で守るべきしきたりではなく、菩提寺の方針や室内のデザインなど、各家の事情により柔軟に考えて差し支えないものです。
堅苦しく考えず、菩提寺などにも相談しながら、季節に応じた管理を心がけましょう。
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