意外と身近だけどよく知らない「数珠」
意味や役割や選び方などから宗派の違いなどを解説

  • 2018.08.02
  • 2020.04.06

仏具

お通夜・告別式などの場ではもとより、お仏壇でお祈りを捧げる際にも用いられる数珠。
日本では当たり前に使われていますが、そのルーツや知識を知っている方は意外と少数です。

今回は、日本人の日常に深く浸透しているために、あまり詳細に注目されてこなかった仏具の一つ、数珠について紐解いていきましょう。

数珠の概要~起源から近現代の流行まで~

数珠という法具が生まれた起源は諸説ありますが、現存する情報の中でもっとも古いとされているのがバラモン教です。
バラモン教とは、現在で言うところのヒンズー教の原始宗教であり、仏教が生まれた経緯に少なからず影響を与えている宗教です。

バラモン教においては身分が厳格に決まっており、バラモンという名称は「神官」の意味を持ちます。
彼らはバラモン教においては最高権力者であり、もっとも尊い存在とされてきました。

その神官たるバラモンが持つ習慣の一つに、瞑想のためにマントラ(真言)と呼ばれる神聖な言葉を繰り返し唱えるというものがありました。
その際に持っていた法具を「ジャパマーラ」と言います。

ジャパとは「念じる」の意味を、マーラは「輪」の意味を持ちます。
形状は現在の数珠とほぼ同じで、珠が輪状に繋がれ、上部には赤い飾りが付いています。
これが、大乗仏教が伝播する際に、一緒に持ち込まれたものと考えられています。

中国を経由して日本に仏教が伝来して以来、数珠として仏僧はもとより、一般家庭にも流入していきます。
近現代になるとアクセサリーの一部として用いられるようにもなり、現世利益のためにパワーストーンなどをあしらったブレスレットなどが、男女問わず身に着けられるようになりました。

数珠が持つ仏具としての意味

数珠という漢字を分解すると「数をかぞえる珠」と書けます。
そのように呼ばれるようになったもっとも有力な理由の一つに「煩悩の数を示している」というものがあります。

煩悩を平たく表現すると「生きていく際に生まれる迷い」のことであり、仏教では人間が持つ煩悩の数を百八つに分類しています。
そこで先人は、煩悩を断ち切るため、煩悩と同じ数、すなわち百八つの珠を繋ぎ合わせて数珠を作ることを思いつきました。

その数を繰り数えたり、数珠自体をすり鳴らしながら御仏の名前を唱えることにより、煩悩を断ち切って心身を清浄化することができるとされてきたのです。
このような由来から、数珠は所持しているだけで功徳が積めるとされ、魔除け・厄除けとして用いられてきた歴史もあります。

数珠の別称に「念珠(ねんじゅ)」があります。
これは主に浄土系の宗派で盛んに行われる「念仏(ねんぶつ)」に由来しています。

念仏の言葉「南無阿弥陀仏」を何回唱えたか数えるために、数珠をつまぐったことから、そう呼ばれることもあります。

ちなみに、浄土真宗の場合はそもそも念仏の回数自体に決まりがあるわけではありませんから、数珠によって回数をカウントする使い方はしません。
数珠一つとっても、各宗派によって種別や使い方が異なるのは、他の仏具と同様のようです。

数珠の使い方

数珠を礼拝時に使用する際の作法は、菩提寺や宗派により異なりますが、基本的なルールは同じです。

手に持って移動する際は、左手に持って移動します。
お経を唱えたりお仏壇・お墓などでお参りする際は、左手の親指以外の指4本にかけて、右手を添えるように合わせます。

お参りの際は、合わせた両手に数珠をかけて、親指で軽く押さえて合掌する場合もあります。
いずれの場合も、飾りの房は下を向くようにして持ちましょう。

厳密に言えば宗派ごとに細かな違いがありますが、葬儀の際や自宅・実家以外のお家にあるお仏壇で礼拝する際は、上記の作法を心得ておけば差し支えありません。

数珠の基本的な種類

数珠と一口に言っても、宗派や形状などによってデザインが異なります。
ここでは、基本的な形状や数珠の規格についてご紹介していきます。

基本的な形状

数珠の形は、特別奇をてらうようなデザインは少なく、三種類の珠と一つの房で構成されています。
以下に詳細を挙げていきましょう。

  • 輪のベース、すなわち数珠の大半を占める「主玉」
  • 房と輪とを繋ぐ「親玉」
  • 数珠のちょうど真ん中で、輪の上部・下部を分けるように繋がる「二天玉」
  • 数珠の飾り部分になる「房」

これらが繋がることで、数珠の形状が構成されています。

珠の種類

数珠に使われる珠は、木や木の実などを加工して作られたもののほか、パワーストーンブームの名残や海外から安価な値段で手に入るなどの理由から、水晶などの石を原材料とするものが増えてきました。
以下に、各種類についてご紹介していきます。

木の場合、お仏壇自体の素材にもなることがある、黒檀・紫檀・白檀・鉄刀木などが使われます。
屋久杉や欅などが使われているものもありますが、どちらかというと稀です。

純粋に木だけで構成されている数珠であれば、略式数珠の場合3,000~6,000円程度と、それなりに手ごろな値段で手に入ります。
しかし、石などが混ざっていたり、なかなかお目にかかれない木の種類であればその分お値段は高くなり、20,000円近くするものもあります。

木の実

数珠の場合、珠が丸い形をしていることもあり、木の実を材料として用いることがあります。
特に、お釈迦様がその下で悟りを開いたとされる菩提樹の木の実は、非常に神聖なものとされています。

菩提樹の木の実は、種類として有名なものは大きく分けて二つあります。
「金剛菩提樹」と「星月菩提樹」です。

金剛菩提樹という猛々しい名称は、サンスクリット語で「神の目」という意味を持つことに由来しています。
無量の福・最勝の益をもたらすとされており、日本のみならず海外でも人気があります。

星月菩提樹は、実の形状が大宇宙の縮図であるかのごとく美しいことから名付けられました。
無数の星が散りばめられた中に一つ穴を見つけることができ、それが月のように見えることから、星月菩提樹と呼ばれるようになったのです。

主に中国が産地となっていますが、産出量は年々減少し、希少価値が高まっている素材の一つです。

仏教用語で「七宝(しっぽう)」という言葉があります。
仏教における七つの宝を意味し、極楽浄土の荘厳さを表現するためのたとえとなっています。

具体的には、大乗仏教の経典に詳細が載っており、経典によって若干詳細が異なります。

七宝について触れられている経典でメジャーなものに、無量寿経(むりょうじゅきょう)・法華経(ほけきょう)があります。
無量寿経では【金・銀・ラピスラズリ(瑠璃)・クリスタル(玻璃)・シャコガイの貝殻・珊瑚・メノウ】が七宝と定義されています。

これに対し法華経では【金・銀・ラピスラズリ(瑠璃)・クリスタル(玻璃)・シャコガイの貝殻】までは一緒ですが、他二つは【真珠・まいかい】を指します。

まいかいとは、中国で主に採取される石の一つで、紫もしくは赤色をした美しい石のことを言います。
現代においては七宝は、数珠の素材として必ずしも尊重される石の種類ではなく、七宝の一部を含む数多くの石が材料として用いられています。

クリスタルなどは一般的に使用されていますが、さすがに金銀の玉を全面的にあしらった数珠が販売されているケースには、まずお目にかかれません。
また、数珠が持つご利益に着想し、様々なパワーストーンを用いた商品が目立ってきたため、七宝の概念自体は次第に薄れつつあります。

ラピスラズリやメノウ・真珠などは、そのパワーストーンとしての効能が広く紹介されていたこともあり、現代でも人気を集めている素材の一つです。
しかし、石のグレードや状態によって、値段が一気に跳ね上がります。

お祈りに使用することを考えると、決して高値の素材にこだわることなく、自分が気兼ねなく使えるものを選ぶことが、もっとも大切なことと言えるでしょう。

本式と略式の違い

数珠の値段を決める要素の一つに、数珠の規格があります。
一般的には「本式数珠」とか「略式数珠」などと呼ばれているものがそれにあたります。

以下に、それぞれの違いについてご紹介していきます。

本式数珠

煩悩の数通り、百八つの主玉が使われているものを言います。
玉数が多いため、その分輪も大きいため、握る際は二重の輪を作ります。

玉数自体は宗派問わず百八つですが、宗派ごとに本式数珠の形状は異なると考えておいて差し支えありません。

略式数珠

一般的に使われている数珠はこちらになります。
主玉の数を簡略化して作った数珠であることから、このように呼ばれます。

伝統的な数としては、五十四、三十六、二十七、十八といった玉数があり、それぞれ108という数字を1/2・1/3・1/4・1/6とした数字になります。
現代においてはそもそも、伝統的な数にこだわらず作成したり、持ち主の手の大きさに合わせたものを作る場合もあります。

略式数珠は、玉数・宗派ごとの種類・房の形に特に決まりはなく、すべての宗派で用いられるのが大きな特徴です。
そのため、自宅用のお祈りは本式で、葬儀などに参列する際は略式でと、使い分けることも可能です。

宗派によって使用する数珠が異なる

先ほど、数珠には本式と略式があることを説明しました。
本式の場合は、さらに宗派によって使用する数珠が異なります。

仏具店に足を運べば、各宗派に則ったデザインのものを購入できますが、自分で見分けたい方のために、簡単な特徴を以下にご紹介していきます。

天台宗

主玉に平玉が使われています。
平玉というのは、ブレスレットなどで見たことがある方もいるかもしれませんが、丸い玉を平たくぺしゃんこに潰したような形状の玉を言います。

かなり特徴的な形状をしているため、一目見れば多宗派との違いは一目瞭然です。
また、素材の種類問わず平玉の数珠を用います。

正式な持ち方としては、房を下にした状態で、左右の手の人差し指・中指の間に数珠をかけます。
あとは、数珠を手の中に包み込むようにして、そのまま手を合わせれば完了です。

真言宗

本式数珠としてはもっともスタンダードな形状とされています。
お寺によっては真言宗以外の宗派でも用いられるため、後にご紹介する八宗兼用本式数珠のモデル的存在と言えるかもしれません。

真言宗などの密教においては、数珠をすり鳴らして音を立てることが、一つの修法(加持祈祷)の終わりを知らせる合図となっています。
数珠をすり鳴らすことには、煩悩を砕く意味が込められています。

正式な持ち方としては、両手の中指にかけた状態で、親玉を手の甲側に向け、二重にして房を握るように手に持ちます。
房はそのまま重力に任せ、自然に垂らすようにして構いません。

浄土宗

浄土宗の本式数珠は、二つの輪を丸環で一つに繋いだ形状になっており、いわゆる輪違い数珠などと呼ばれます。
僧侶が使うものと在家で使うもので素材が分かれており、僧侶が儀式で使うものは荘厳数珠とも呼ばれ、玉の全てが水晶となっています。

これに対し、一般的な在家の方が使用する数珠は日課数珠と呼ばれ、本来であれば「一日〇〇回日課として念仏を唱える」という誓約を立てて、日々のおつとめに臨む際に使われます。

正式な持ち方としては、二つある輪の親玉を揃えた状態で、合掌した手の親指にかけます。
このとき、房は手前に下ろすのが基本ですが、浄土宗内の宗派によっては、房を外側に下ろす場合があります。

浄土真宗

日本国内の宗派の中でも、数多くの異端的要素を持つ浄土真宗ですが、数珠においてもたくさんの特徴を持ちます。
その一つに、男女によって数珠の種類が異なるというものがあります。

男性用は、紐が房となっている、片手で持てる数珠が主流になっています。
主玉の数も少量であり、概ね二十二個で構成されています。
これに対して女性用は、主玉が百八個あるものが主流です。

デザイン的には真言宗のものに似ていますが、房の形に特徴があり、数取りすることを想定していない「蓮如結び」になっています。
これは、阿弥陀仏の信仰により功徳を積むことなくそのまま浄土へ往けるという、親鸞の教えを反映しているためです。
浄土宗のように、何らかの誓約を立てる必要が無いという考え方に基づいています。

浄土真宗は大きく分けて本願寺派と大谷派に分かれており、それぞれで持ち方も異なります。
ただし、男性は片手で持つため、分かれるのは女性の持ち方になります。

本願寺派の場合は、数珠を二重にして合掌した手にかけたら、房を下に垂らして持ちます。
大谷派は、二重にした数珠を親指・人差し指の間で挟み、左手側に房を垂らして持ちます。

臨済宗・曹洞宗

臨済宗と曹洞宗はともに禅宗であり、念仏やお題目を唱えるといったことはせず、座禅によって自己と向かい合うことを主とする宗派です。
そのため、多宗派に見られる数珠の作法は存在しないと考えて良いでしょう。

それぞれのデザインの違いは、丸環が付いているかどうかになります。
臨済宗には付いていませんが、曹洞宗には付いています。
そのほかは同じで、一連になったものを二重にして用います。

正式な持ち方としては、数珠を二輪にして左手にかけた後、房を下にした状態でそのまま合掌します。

日蓮宗

日蓮宗で用いる数珠も独特なデザインをしています。
真言宗に形状は似ていますが、二つある親玉のうち、片方の親玉には房が三つあるのが特徴です。

別称として法華数珠の名称があり、祈祷の際に木剣と数珠を打ち鳴らす作法があったことが、そう呼ばれることになった由来と言われています。

そのため、黒檀・紫檀といった硬くて丈夫な木材で数珠が作られていましたが、現代では特に素材を気にする必要はありません。
正式な持ち方としては、念珠の輪を八の字にねじってから中指にかけ、右手に日本房・左手に三本房を持ってきた状態で合掌します。

八宗兼用

ここまでご紹介してきた通り、各宗派によってデザインや持ち方が異なる本式数珠ですが、様々な種類があるだけでなく、宗派ごとに数珠を使い分ける必要があることを知っている人は少ないのが現状です。

現代では無宗教の方も少なくなく、仏教とは異なる宗教を信仰しているご家庭も珍しくありません。
そのため、宗派にこだわることなく使える数珠が作られるようになりました。

一般的に八宗兼用と呼ばれる数珠がそれにあたり、各々のご家庭で自由に使える数珠になります。
実際の仏具店などでは、一般人にもよりわかりやすくするために、八宗兼用という呼び名ではなく、全宗派対応と書かれている場合が多いかもしれません。

もちろん、法事や葬儀の際などにも違和感無く使用できます。
まだお仏壇をお持ちでない方や、形式にこだわる必要の無いご家庭であれば、購入を検討しても良い数珠と言えるでしょう。

仏具の数珠のまとめ

葬儀や法事、毎日のおつとめなど、日本人のイベントにおいて使う機会が多い数珠ですが、掘り下げてみると数多くの由来や種類・素材があることに驚いた方も多いのではないでしょうか。

日本で暮らしている限り、数珠を使用する場面は少なからず存在しますが、宗教観念の変化から、現代においては必ずしも用意する必要が無い仏具でもあります。
そのため、ご自身でお使いになる数珠自体を持っていないという方も少なくありません。

しかし、ご自宅におけるお仏壇の有無にかかわらず、仏教的行事の折々で数珠を手に持ち祈ることは、死者や御仏への供養の気持ちを伝える手助けとなってくれます。

腕に身に着けるアクセサリー型の数珠を普段からファッションとして身に着け、それを行事の際にそのまま用いるという人も、若い世代を中心に増えています。
教義の中にはお守りなどの存在を否定する宗派も存在しており、そのような方向けに数珠が広まった経緯もあります。

パワーストーンとしての効能が注目を集めるなど、幅広い用途・世代に、新しい形で広がりつつある数珠。
今まで仏教とは縁遠く、お仏壇で礼拝する際も用いていなかったと考えている方にこそ、手に取ってもらいたい仏具の一つです。

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  • 公開日:2018.08.02
  • 更新日:2020.04.06

カテゴリ:仏具

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