似てるようで違う仏像の光背について
意味や特徴と光背の違いや価格とランクについて
お仏壇において非常に大切となる御本尊。
そんな御本尊を選ぶときに仏像を見てまわると、同じ仏像でも後ろの模様が色々と違う事に気付きます。
よく、何か大変なお世話になった方や助けてもらった方に対して「後光が指して見えた」などという表現をしたりして、敬意を示すことがありますが、実はこの後光にあたるものが、仏像の光背になるのです。
仏像を購入する際にはあまり気にしない方も多いかもしれませんが、よくよく気にかけてみると意外な事実が見えてきたりします。
今回は、そんな仏像の光背についてご紹介します。
そもそも「光背(こうはい)」とは、何を表現しているのか
最初に、そもそも光背という概念が、いったい何を表現しているのかについて紐解いていきましょう。
これは必ずしも仏教だけに用いられていた概念ではなく、海外の宗教でも用いられていたものなのです。
光背とはオーラ(光明)を具現化してデザインしたもの
光背とは、神仏および聖人が持つ輝かしいオーラ(光明)を、視覚的に分かるよう具体化したものです。
古代宗教においてもすでに放射状の光が表現されていた例があり、宗教性の高いデザインと言えるでしょう。
古代人には万物のオーラが見えていたとも言われていますが、光背もまたその名残なのかもしれません。
仏教だけでなく、キリスト教やイスラム教にもその概念は見られる
日本では圧倒的に仏教でその存在を確認できますが、キリスト教にも同様の概念は存在しており、聖人の頭に円型の光を書き入れる「ヘイロー(頭光)」というデザインは、古くから用いられてきました。
現代におこった宗教においても、そのデザインを踏襲している例は少なくありません。
イスラム教の場合は、預言者の身体全体や頭の上で炎が勢いよく燃えているような表現がなされています。
強い力を感じさせるデザインの一つです。
光背は、神仏に対する畏敬の念を込めた表現の一つ
光背という概念は、神仏に対する畏敬の念を込めた表現の一つと言えるのかもしれません。
また、神仏の個性を示すのにも用いられています。
仏教でいえば、仏法の番人である不動明王は憤怒の表情で炎をまとい、人を惑わすものを威圧しています。
これに対して地蔵菩薩の場合は輪光を光背としているデザインが多く、仏教の智慧により苦しむ人を救うという、円満さを表現しています。
それぞれの仏像が持つ個性がそのまま信仰の対象となり、現代にまで続く幅広い光背の種類が引き継がれていったのですね。
現在市場に出回っている仏像の光背には、どのような種類があるのか
このように、仏像によってさまざまな光背が描かれているわけですが、現在市場に出回っている仏像について言えば、具体的にはどのような種類があるのでしょうか。
以下に詳細をご紹介します。
光背は大きく二種類に分かれる
光背の種類は大きく二種類に分かれており、頭から光を発するデザインになっている「頭光(ずこう)」と、身体から光を発する「身光(しんこう)」とに分かれます。
そして、二つの光が合わさったものを「挙身光(きょしんこう)」と呼びます。
販売されている仏像の多くは、頭光か挙身光のいずれかのデザインをとっていることが多いようです。
また、お仏壇に安置するものは、その大半が挙身光となっていますが、一部光背がないものもあります。
ここからは、多くの仏像デザインに用いられている種類の光背について、いくつかご紹介していきます。
唐草模様の光背
挙身光の一つですが、各種光背の模様として間接的に用いられることもあります。
唐草模様というのは、織物や染め物でも見られるデザインで、つる草のはい回る様子を図として表現したものです。
古来から伝えられているデザインの一つで、もともとはエジプト・メソポタミア文明においても用いられてきました。
日本にはシルクロードから伝わったものと考えられており、それから日本独自の感性によって発展を遂げてきました。
唐草文様には生命の強さを表す象意があり、途切れることなくつるを伸ばしていくことから「繁栄・長寿」などの意味を持つものとされています。
比較的スタンダードなデザインの一つで、釈迦如来の光背として用いられていることが多いですが、一部阿弥陀如来にも使われています。
また、座位の仏像に用いられることが多いデザインでもあります。
舟形の光背
挙身光の一つで、立位の仏像に対して用いられることが多い光背になります。
独特な名前の由来は、光背の形が船首を上にして舟を縦に立てたような形をしていることから、この名称になりました。
といっても、単純に船のような形でオーラ部分がまとまっているわけではなく、きちんとデザインもなされています。
市場で多く見られるのは、いわゆる「透かし唐草」と呼ばれるデザインで、唐草光背を立位で具体化したものが舟形と呼ばれるケースが多く見られます。
しかし、仏像によってはそのほかの模様によって構成している場合もあり、一概に全てが透かし唐草というわけではありません。
市販されている仏像の中では、阿弥陀如来に使われている例が多いですが、聖観音などにも用いられます。
ちなみに、古来からある地蔵菩薩の石像などを見てみると、模様のない舟形光背になっているものも存在しています。
飛天の光背
躍動感のあるデザインで、一見すると風を表しているようにも感じられる光背です。
本来、飛天とは仏教において諸仏の周囲を飛び回り、礼賛する天人のことを指します。
天界の花を散らしたり、音楽を奏したり香を薫じたりするものとされています。
古来は、この飛天が単体で表現されていたこともありましたが、現代で市販されている仏像においては挙身光となっているデザインが一般的です。
御仏の周囲に飛天が配置されており、強い存在感が感じられます。
座位に用いられることが多く、大日如来・釈迦如来・薬師如来・文殊菩薩などに用いられている例が多いようです。
ただし、阿弥陀如来などの場合は、舟形・立位の光背に加える形で用いられていることもあります。
水煙の光背
水煙と聞くと水煙草や湖面などの水しぶきを連想する方が多いと思いますが、仏像における水煙という表現は少し違います。
もともとは、仏塔の九輪上部につける飾りのことを指しており、実際の意味合いとしては炎をかたどったものとされています。
しかし、今昔問わず火事は大事ですから、火災を避ける意味で工匠が呼び始めたものが現代に至るという説が浸透しています。
実際の光背においては、緩やかな曲線により表現された煙の線が規則的に美しく中央に向かって上っていくようなデザインとなっています。
座位・立位ともに用いられます。
仏像として販売されているものとしては釈迦如来が多く、次いで阿弥陀如来が多いようです。
火炎の光背
文字通り、激しい炎をイメージした光背になります。
特徴として、頭光・身光の部分が円でしっかり表現され、その後ろに炎が表現されています。
手の込んだ仏像なら、頭光部分と身光部分とでそれぞれが構成された後に組み合わさっている「二重火炎光背」というデザインもあります。
どちらかというと座位が多いですが、不動明王などは立位になります。
火炎が用いられている仏像としては、やはり真言宗の加持祈祷のイメージからか大日如来に多く見られ、次いで馬頭観音や不動明王などが目立ちます。
輪光(円光)の光背
輪光背などと呼ばれ、頭光での光背となります。
仏像の頭を一輪が囲むようにデザインされており、もっとも原始的な光背の一つと言えるかもしれません。
よくデザインされているのは地蔵菩薩で、立位のものが見られます。
他には、毘沙門天や浄土宗における脇侍となる善導大師・円光大師(法然上人)にも用いられています。
二十円光の光背
頭光・身光の形を円で表した光背になります。
単独で用いられることもありますが、多くの場合は唐草や飛天・火炎といった光背の一部分として用いられます。
商品化されているものの中からは、二十円光のみで表現されている仏像が見つかるケースは少ないでしょう。
宝珠光の光背
仏教で重宝される、宝珠のような形状をした光背になります。
橋などの欄干に用いられる擬宝珠(ぎぼし)のような形状をしており、形状としては摩尼宝珠(まにほうじゅ)・如意宝珠(にょいほうじゅ)をかたどったものになります。
頭光としてデザインされることが多く、意のままに様々な願いをかなえる宝という意味があり、阿弥陀如来の台座などにも飾られていることがあります。
仏像としてはお仏壇向けに広く市販されているものではありませんが、救世観音・百済観音などに用いられ、勢至観音が単体商品として販売されているケースも見られます。
放射光の光背
御仏の頭部後ろから光明が差しているかのようなデザインで、光が放射線状に伸びて円をかたどっています。
また、身光は唐草で彫られ、マントのように見えます。
こちらは阿弥陀如来に用いられることが多く、浄土真宗で主に用いられるデザインとなっています。
しかし、お仏壇では掛け軸を用いるという事もあり、一般家庭では基本的に御本尊は掛け軸でも仏像でも問題ありません。
菩提寺から言われた決まりごとや個人の意思で安置する場合以外は、あまり気にする必要はないと言えるでしょう。
日蓮
例外的な仏像になりますが、日蓮宗の開祖である日蓮の仏像には、光背はありません。
これは、日蓮はあくまでも真の仏法(法華経への帰依)を広めるべく立ち上がったのであり、自らを崇拝すべしとの発想を持っていなかったことが理由と考察されます。
デザインとしては木材がそのままの風合いで用いられているものが多く見られますが、彩色・極彩色の技術が用いられ、きらびやかになっている日蓮像も販売されています。
光背のランクや価格帯の関連性
仏像の価格は、光背の技術によって大きく違うものなのでしょうか。
結論から言えば、仏像の価格帯を決める大きな要因は素材であり、光背を彫る技術によって金額が大きく上下するケースはそこまでありません。
同じ材質やサイズでも、光背によって多少の値段が変わることはあります。
光背によって彫る技術や加工技術が異なるため、いわゆる手間がかかる光背の場合にはその分だけ同じサイズ、同じ材質でも少し値段が高くなります。
とはいえ、やはり御本尊の仏像で大きく値段が変わるのは材質によってになります。
白木がもっとも安く、ヒノキ・柘植(つげ)・楠木・金箔・白檀といった順に高くなっていきます。
注意したいのはむしろ宗派によるデザインの違いで、浄土宗は舟形の光背が多いのに対し、浄土真宗は放射光型が多数です。
また、曹洞宗などの禅宗や、真言宗・天台宗は座位の仏像になりますし、光背も仏像によって変わってきます。
この御本尊にこの光背がと思ってもないという事も多くあります。
また、台座部分の装飾に力が入っているものも多いため、その点を考慮しての価格帯と言えるかもしれません。
基本的には、宗派のご本尊さえ頭に入っていれば、ある程度は使われる光背も絞られていて数種類ほどになりますので、あとはそこから予算や好みなどを考えて判断して仏像を選べば問題ありません。
おわりに
仏像の光背は、世界各地の宗教にも見られる「後光」を表現したものですが、仏像によってその形状はさまざまです。
数多くのデザインが今日まで引き継がれているのは、仏像の個性を反映しようとした仏匠たちの試みによる成果でもあります。
現代において、仏像の光背にまで思いをはせる場面はそうありませんし、専門業者であっても名称とデザインの違いによる区別・理解にとどまってしまっている点は否めません。
しかし、少なくとも実際に購入する場合、単純に光背デザインの違いから価格帯が多少変化することはあっても、大きく価格が光背では変化しないことだけでも知っておけば、自分が本当に必要な仏像を選ぶ一つの参考情報にはなるはずです。
現代の市場であまり見かけないデザインなら、それ相応の価格になっている可能性もありますし、一般的なものなら値段に大きな違いはありません。
素材・価格・宗派に加えて、余裕があれば光背のデザインも確認してみましょう。
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